経営者の集いより
講話抜粋 《人生逃げたらあかん》
講師 福岡県倫理法人会副会長 大島修治 氏
平成9年の10月、事件後初めて出社しました。出社といっても、その頃は、字は書けない、言葉もうまくしゃべれない。
自分の居場所が無い
すぐに、ここには自分の居場所が無いと感じました。「おはよう」と声をかけても、みんな下を向いて黙々と仕事を続けて、返事をしてくれない。誰一人として「退院おめでとうございます」と声をかけてくれる人はいません。怖いものを見るような顔をして、「いまごろ何で出てきたの、そんな体で大丈夫」と言っているようでした。
職と生活を奪う
事件に遭って1年3ヶ月、その間にした事は、会社を潰さないための合理化の指示だけです。70億あった年商、230人いた社員は、10分の1になっていました。私は肝心のことを忘れていました。この合理化によって多くの社員の職と生活を奪ってしまったことを忘れていました。
針のむしろ
何としても社員の信頼を取り戻さなければ、社員と心の絆を結ばなければならない。私は「従業員は私の使用人だ。給料を払ってやっているんだ」と、えらそうな経営をしていたのです。会社に復帰した時の社員の冷やかな態度からは、そういう社長を決して認めない、許さないという気持が伝わってきて、針のむしろに座っているようでした。
トイレ掃除開始
会社のトイレは約四坪ほどで床はタイル張りになっています。そこに小便器と大便器が二つずつあります。私はそのトイレの掃除を始めました。朝トイレに行き、長靴を履いて左手に手袋をします。左手でタワシやスポンジを使い、右手の中指と薬指の間にホースをはさんで水で洗剤を洗い流します。洗剤がホースにつくとつるつるとすべってしまい、最初はうまく行きませんでした。指の間をすり抜けていくのです。水道からは水が勢いよく出ていますから、私の手を離れたホースは蛇のように踊り出します。それでトイレが水びたしになってしまいました。
トイレ掃除はやめてください
トイレだけではなく、私の身体もびしょぬれ。掃除を始めて四日目ぐらいのこと、一人の女子社員が私のところにやってきて、「会長、もうトイレ掃除はやめてください。私たちがしますから」と言うんです。「えっ?どうして?」と聞くと、私がトイレ掃除をしたあとは、トイレットペーパーなど全部ぬれてしまって使い物にならないと言うのです。
これからは気をつけます」と答えたものの、内心では「こんなに苦労してやっているのに」と不満で一杯でした。それは社員に対する不満だけではありません。ときにはトイレの便器に映る自分の顔に犯人の顔がだぶって見えて、「すべてはおまえのせいなんだ」と、犯人に対する憎しみがかきたてられることもあります。
何か手伝いましょうか
しかし、それでも私はやめませんでした。いまやめたら元も子もないと思ったからです。また社員に指摘されたことも、言われてみればその通りだと反省しました。だんだんと手際よくなって短時間でピカピカの状態に仕上げる事ができるようになると、嬉しくなって、玄関前の道路も掃くようになりました。最初、自分達への当てつけと感じていた社員もいたようです。
二週間程したある日、便器を磨いていた私に、「会長、おはようございます。何か手伝いましょうか」と一人の社員が声をかけてくれました。この時は嬉しくて涙が出て止まりませんでした。

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